意見表明

2021年 九州労働弁護団活動方針

2021年2月6日

第1 新型コロナに起因する労働事件への取組

2020年は社会全体が新型コロナ一色となった。緊急事態宣言発出や店舗への時短営業要請など労働者の職場環境に大きな影響を与える事象があり、その状況は今も収束していない。新型コロナを理由に、自宅待機を指示されながら給与を一部しか支払ってもらえなかったり、解雇・雇止めをされたりするケースもあり、更には新型コロナに便乗して人件費削減する使用者も存在する。このように新型コロナは様々な労働問題を発生させているため、事案毎に的確に対処し、労働者だけがしわ寄せを受けることのないよう取組を行っていく。

第2 ハラスメントに対する取組

2020年6月からセクハラ・マタハラ防止措置が強化され、パワハラについても使用者の防止措置が義務化された(中小企業は2022年3月まで努力義務)。依然として、ハラスメントに関する相談が多くよせられている現状において、これら法律によるハラスメント防止強化は、使用者のハラスメント防止責任を明確にしたものである。職場からあらゆるハラスメントが無くなり、労働者が良好な職場環境で就労できるよう、法的手段も含めて取組を行っていく。

第3 均等均衡待遇への取組

令和2年11月改正前労契法20条に関する重要な最高裁判決がだされた。均等待遇を一部認め、一歩前進はしたものの、賞与や退職金差別を認めないなど不当な内容も多い。今後はパート有期法8条の適用に争点が移るが、正規・非正規間の最も重要な格差というべき、基本給や賞与の格差是正に向けて更に取組を行っていく。

第4 高年齢者雇用

改正高年法では、事業者に70歳までの就業確保措置をとることを義務づけている。しかし、60歳定年後の再雇用においてすら、著しい労働条件の不利益変更など定年後の労働条件や更新拒絶など多くの問題が出てきている。65歳以上の労働者については更に苛酷な労働条件になることが予想されるとともに、創業支援等措置として労働者ですらない制度も容認されていることから労働諸法による保護から外れる者も出てくる畏れがある。事業主が高年齢者に対して、安易かつ不当に労働条件を不利益変更したり、労働者保護の対象から外すことのないよう、断固闘っていく。

第5 更なる労働環境悪化を阻止するための取組

  1. 教職員の給特法についての取組
    教職員給与特別措置法が改正され、条例により教職員に1年単位の変形労働時間制の導入が可能となったことから、各地で条例改正が検討されている。しかし、教職員は新型コロナによる一斉休校の影響もあって、業務負担が増加し、長時間労働に拍車が掛かっているともいえる。変形労働時間制導入が恒常的時間外労働を正当化する理由として利用されてはならない。少なくとも、今後、指針に定められた在校等時間の管理が徹底され、現場への変形労働時間制導入が阻止されるよう、労働組合が中心となって働きかけることを支援していく。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          
  2. 雇用によらない働き方拡大に対して
    新型コロナによる巣ごもり需要により、ウーバーイーツ等の利用が全国で急速に広まった一方で、新型コロナによる営業自粛でフリーランスの収入基盤が脆弱であることも顕わになった。対使用者との関係から、個人事業主やフリーランスであっても、労働者と同様に保護すべき立場にいる者もいることから、今後の政策状況を注視していくことが必要である。
  3. 解雇の金銭解消制度
    「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」は2019年12月から開催されていなかったが、2020年11月から再開されている。金銭解消制度導入は労働者にとってメリットはなく、使用者による不当解雇を招く畏れの高い制度である。引き続き、導入阻止に向けて活動していく。
  4. 副業兼業
    2020年8月に策定されたガイドラインでは、労働時間の上限規制や割増賃金算定においては事業主を異にする場合でも労働時間を通算することとしており、この点では評価できる。しかし、あらかじめ上限規制枠内で時間外労働の上限時間を定めておけば、割増賃金については自社の法定外労働時間に対して支払えば足りるし、他社での労働時間の把握をしなくてよいとする簡便な労働時間管理モデルが示されていることは問題である。長時間労働が無くならない現状において、使用者の労働時間把握義務が軽減され、過労死の責任を誰も取らない事態を招かないように運用状況を厳しく注視していく必要がある。

第6 九州の労働者が直面している問題に対する取組

  1. 正規・非正規格差是正向けた取組(有期パート法8条)
  2. 最低賃金の大幅な引上げに向けた取組
  3. 女性労働者の権利擁護の取り組み
  4. 職場でのハラスメントを根絶する取組
  5. 労災、アスベスト、原発労働問題

第7 信頼に応えられる弁護団へ

  1. 労働者・労働組合の権利闘争への取組の強化
    総会・夏季学習会において、弁護士からだけでなく、労働組合からの事例報告を充実させ、情報共有・連携を促進し、労働者・労働組合の権利闘争に取り組む。
  2. 情報発信への取組
    対外的には九労弁のホームページを充実させるとともに、対内的には総会等でも引き続きリモート利用を検討し、会員間の情報共有を促進していく。
  3. 新入会員の拡大
    会員増加に向けて、新入会員・若手会員が九労弁にアクセス・加入しやすい環境を整える。
  4. 労働相談活動の充実
    各地の常設ホットライン開設を更に進めるとともに、様々なホットラインに取り組んでいく。
  5. 各地弁護団の活動支援
    労働弁護士の魅力を伝えると共に、各地での活動が更に活発かつ継続的になされるよう各地弁護団を経済面も含めて支援していく。

以上

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